吉行淳之介の「男娼会見記」
2005/02/08
本
吉行淳之介の「男娼会見記」というエッセイを読んでみました。『吉行淳之介エッセイコレクション2』(ちくま文庫2004年)に収録されています。または『紳士放浪記 男と女のにんげん術』(集英社文庫1987年、単行本は1963年)。
戦後の上野界隈に縁のあったおTさんという人と会見したときの話を中心に書かれています。吉行淳之介自身はそういう性向や趣味はないと書いています。さらに「私はソノ道の専門語でいえば"純綿"」なのだそうです。私は「純綿」の意味がよくわからず、「部外者」というような意味かしらとも思いました。でも念のために調べてみました。
「トランスジェンダー用語の基礎知識」によると、「純綿」とは、生まれながらの女性の意味で、品質の良い純綿と、安価なまがいものの化学繊維との比喩から使われ出した隠語らしいです。「純綿」から「純女(じゅんめ)」という言葉もできたとのことです。
となると吉行淳之介は純綿の意味を取り違えています。しかし……と私は思いました。吉行淳之介ほどの人が言葉を間違えるのは奇妙なことです。けれど彼は、自分にはそういう性向や趣味はないと書いていましたね。それを証明するためにわざと間違えて見せたのかもしれません。
おTさんの上野時代の思い出話にこんなのがありました。女性と信じて疑わないでいる男性との接し方についてです。
「ええ、その代り神経使うわよ。泊りの場合なんかね、お床に入る体位とか、ことが済んでそのあとの体位とか、翌朝太陽の直射を受けないような場所を考えるとか、ずいぶん気を使うわよ。それから、お茶を飲むときにうまく喉仏をかくすようにするとか、ほんとうに神経を使うの。だからこんなに痩せちゃうのよ」
お床でのレンコンというテクニックもありましたし(鳩子の日誌コラムの2004年12月28日)、すごいテクニックなんだろうなと思います。おTさんは、ある学生さんからプロポーズされたとき、自分の本当のことを言って断ったことがあるそうです。
「そうしたら、その学生が"ボクまだ童貞なんでしょうか"て訊ねるのよ。だから私、だいじょうぶまだ童貞よ、て言って安心させてあげたわ」
ユーモアもある優しい心遣いだと思います。でもやっぱり童貞の若い青年が多かったのかなとも思いました。
「私、世間の人にもっと大きな目で見てもらいたいのです。もちろん、私たちのやっていることが、普通の人のすることじゃないと思っています。これが当り前とは思っていないのですけれども、本人がしたくてしているわけでなし、親がそういうつもりで生んだわけじゃなし。……」
おTさんのこの言葉のうちの「本人がしたくてしているわけでなし」という部分が、とても気に入っています。今の人なら「誰にも迷惑をかけてないし、したいようにしてなんでいけないの」という言い方になるのでしょう。でも、好きこのんでこういう性向に生まれたわけじゃないんだという言い方が、人生の奥深さや懐かしい風情が感じられて、良い言葉だなと思いました。
戦後の上野界隈に縁のあったおTさんという人と会見したときの話を中心に書かれています。吉行淳之介自身はそういう性向や趣味はないと書いています。さらに「私はソノ道の専門語でいえば"純綿"」なのだそうです。私は「純綿」の意味がよくわからず、「部外者」というような意味かしらとも思いました。でも念のために調べてみました。
「トランスジェンダー用語の基礎知識」によると、「純綿」とは、生まれながらの女性の意味で、品質の良い純綿と、安価なまがいものの化学繊維との比喩から使われ出した隠語らしいです。「純綿」から「純女(じゅんめ)」という言葉もできたとのことです。
となると吉行淳之介は純綿の意味を取り違えています。しかし……と私は思いました。吉行淳之介ほどの人が言葉を間違えるのは奇妙なことです。けれど彼は、自分にはそういう性向や趣味はないと書いていましたね。それを証明するためにわざと間違えて見せたのかもしれません。
おTさんの上野時代の思い出話にこんなのがありました。女性と信じて疑わないでいる男性との接し方についてです。
「ええ、その代り神経使うわよ。泊りの場合なんかね、お床に入る体位とか、ことが済んでそのあとの体位とか、翌朝太陽の直射を受けないような場所を考えるとか、ずいぶん気を使うわよ。それから、お茶を飲むときにうまく喉仏をかくすようにするとか、ほんとうに神経を使うの。だからこんなに痩せちゃうのよ」
お床でのレンコンというテクニックもありましたし(鳩子の日誌コラムの2004年12月28日)、すごいテクニックなんだろうなと思います。おTさんは、ある学生さんからプロポーズされたとき、自分の本当のことを言って断ったことがあるそうです。
「そうしたら、その学生が"ボクまだ童貞なんでしょうか"て訊ねるのよ。だから私、だいじょうぶまだ童貞よ、て言って安心させてあげたわ」
ユーモアもある優しい心遣いだと思います。でもやっぱり童貞の若い青年が多かったのかなとも思いました。
「私、世間の人にもっと大きな目で見てもらいたいのです。もちろん、私たちのやっていることが、普通の人のすることじゃないと思っています。これが当り前とは思っていないのですけれども、本人がしたくてしているわけでなし、親がそういうつもりで生んだわけじゃなし。……」
おTさんのこの言葉のうちの「本人がしたくてしているわけでなし」という部分が、とても気に入っています。今の人なら「誰にも迷惑をかけてないし、したいようにしてなんでいけないの」という言い方になるのでしょう。でも、好きこのんでこういう性向に生まれたわけじゃないんだという言い方が、人生の奥深さや懐かしい風情が感じられて、良い言葉だなと思いました。
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