……藤井貞和『物語の結婚』(ちくま学芸文庫)の中の「女性の霊的優位覚え書」を読んでみました。
 南西諸島でいうユタとは民間の神事に携わる人のことです。その多くは女性ですが、まれに女装の男性の場合もあります。
 女性が多い理由は、民俗学でいう「妹の力」なのだと説明されます。女性は夫や兄弟など肉親の男性の守護霊的存在であり続け、それは「女性の霊的優位」によるものだろうといわれます。原初のかたちでは女性は生理中には誰の妻でもなく神の妻となるという信仰に基づくのだということです。

 しかし男性のユタもいることから、女性の霊的優位もいちがいにいえないのではないかと藤井はいいます。
 ある男性がユタとなったきっかけは、19歳のときに山に行ったとき、稲穂を見て数日して発熱し、ユタに相談に行くと、お前は神に仕える人になるだろうということで、その後、幻覚の中に現れた女ユタの言葉のとおりに眼前に現れた馬に乗ると、ユタの祭具を埋めてある場所に至り、祭具を掘り出して女ユタの継承者になったといいます。こういうパターンは女性がユタになるときも同様らしいですが、男性は20歳前後、女性は40歳前後が多いらしいです。
 男性のユタの女装は、女性の霊的優位にあやかるものともみられますが、女性が40歳でユタとなるころは女性らしさの衰えるころであり、馬にも乗るとなるとそれはむしろ男装なのではないかと、藤井氏はいいます。
 23、4歳でユタとなった女性の例では、やはり似たような経過をたどり、夫の4代前の男性の後継者となったというので、その男性も男ユタということになり、けっきょく女性も男性も同じであり、女性の霊的優位とはいえないと藤井氏は付け加えます。

 むつかしい話ですが、女ユタの前が男ユタであり、その男ユタの前が女ユタ、という螺旋模様をたどってゆくと、ある一人の少年による生理の模倣を幻想してしまいます。

 他に藤井氏の指摘した点で気になるのは、馬に乗ることの意味で、婚礼儀礼で花嫁が馬にのる習俗があります。稚児が乗るのは古いのか新しいのかわかりません。
 「旅は女性を一家の守護者の位置に据える」とも書かれ、女性にとっての旅の意味はどういうものなのでしょう。
 藤井氏が参考文献としてあげたもの。国分直一『日本民族文化の研究』(慶友社) 山下欣一『奄美のシャーマニズム』(弘文堂) 袋中上人『琉球神道記』巻五(角川書店)
 『琉球神道記』にこんなことが書かれているようです。「変身(はみ)は前前より二人三人これあり、これ男子変じて女人となる。男根はありと雖も枯萎(こい)す。容貌変じて鬚も落つ。声も代れり。神祠の役人となる」

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