パトリシア! 第1回
2005/06/18
詩・ショートストーリー
(短編小説、というか、ちょっとした空想物語を書いてみました)
学生生活最後の夏休みも終わろうとするころ、パトリシアは思い出のY海岸に来ていた。浜辺に続く松林の中を抜けると、1年前と変らぬ青い海が見えた。
1年前のこの浜辺で、パトリシアは、1年年長のドロシーとのひとときを過ごしていた。あの日、髪を短く切ったドロシーは、ズボンのスーツ姿。
「就職しなくちゃだからね」と照れくさそうにつぶやいたドロシー。
「生きていくためには、男のかっこうするのもしかたないのよ」
二人はもともと女の子として生まれたわけではなかったが、成長とともに少女の服装で過ごす時間が長くなっていた。そして今の大学で知り合い、それから二人は自由な学生時代をほとんど女性のように過ごし、姉妹のように行動をともにしていた。
1年前と同じように、パトリシアは、浜辺を素足で歩いている。長いスカートの裾がしぶきで濡れないように用心しながら、水際のひんやりとした砂の上を歩いた。あのあとドロシーは卒業して就職していったけれど、今年のパトリシアはまだ将来は決まっていない。
「あたしどうしたらいいんだろ」
パトリシアがよろけそうになったとき、近くの岩陰に古ぼけた小さなボートが見えた。
「去年、二人で乗ったボートだわ」
パトリシアは、周囲に誰も見ていないことを確かめて、内緒でそのボートに乗ってみた。そういえば1年前は、ラジオでは台風の接近のニュースを放送していたのに、とても静かな海だったことを思い出した。
いつもドロシーがボートを漕いでくれたので、パトリシアはオールの使い方がよくわからない。けれどボートはどんどん進んでいった。ドロシーが遠くから力を貸してくれているのかしらと、パトリシアは思った。けれどそれは、不思議な異常な力がどこからか働いたものだったのである。ボートは次第にスピードを上げて行って沖へ出たかと思うと、突然空は暗雲で覆われ、強い風と雨が吹き荒れ、激しい嵐の中でボートは行方を失ってしまった。パトリシアはボートの縁にしがみつきながら、自分の意識が薄れてゆくのを感じていた。(つづく)
学生生活最後の夏休みも終わろうとするころ、パトリシアは思い出のY海岸に来ていた。浜辺に続く松林の中を抜けると、1年前と変らぬ青い海が見えた。
1年前のこの浜辺で、パトリシアは、1年年長のドロシーとのひとときを過ごしていた。あの日、髪を短く切ったドロシーは、ズボンのスーツ姿。
「就職しなくちゃだからね」と照れくさそうにつぶやいたドロシー。
「生きていくためには、男のかっこうするのもしかたないのよ」
二人はもともと女の子として生まれたわけではなかったが、成長とともに少女の服装で過ごす時間が長くなっていた。そして今の大学で知り合い、それから二人は自由な学生時代をほとんど女性のように過ごし、姉妹のように行動をともにしていた。
1年前と同じように、パトリシアは、浜辺を素足で歩いている。長いスカートの裾がしぶきで濡れないように用心しながら、水際のひんやりとした砂の上を歩いた。あのあとドロシーは卒業して就職していったけれど、今年のパトリシアはまだ将来は決まっていない。
「あたしどうしたらいいんだろ」
パトリシアがよろけそうになったとき、近くの岩陰に古ぼけた小さなボートが見えた。
「去年、二人で乗ったボートだわ」
パトリシアは、周囲に誰も見ていないことを確かめて、内緒でそのボートに乗ってみた。そういえば1年前は、ラジオでは台風の接近のニュースを放送していたのに、とても静かな海だったことを思い出した。
いつもドロシーがボートを漕いでくれたので、パトリシアはオールの使い方がよくわからない。けれどボートはどんどん進んでいった。ドロシーが遠くから力を貸してくれているのかしらと、パトリシアは思った。けれどそれは、不思議な異常な力がどこからか働いたものだったのである。ボートは次第にスピードを上げて行って沖へ出たかと思うと、突然空は暗雲で覆われ、強い風と雨が吹き荒れ、激しい嵐の中でボートは行方を失ってしまった。パトリシアはボートの縁にしがみつきながら、自分の意識が薄れてゆくのを感じていた。(つづく)
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